工業簿記イントロダクション

工業簿記イントロダクション

これからは工業簿記について学習します。

日商簿記2級は少し変わった試験で、2級の商業簿記だと商業簿記については、簿記3級から学習してきており、2級商業簿記は3級からの続きということになるのですが、2級の工業簿記は、また初めから新たに勉強しなければならないという、続きと初めてがまとめて1つの試験になっているという妙な試験ではあるんですね。

それはそれとして、工業簿記という教科自体は初めからなので、この章では試験問題で、直接聞かれることはありませんが、工業簿記の基本的な知識を私なりの見解を混ぜながらお話ししようかと思います。

工業簿記とは

工業簿記とは何かと一言でいうと、製造業における簿記が工業簿記になります。

今まで学習してきた簿記3級の試験は、商業簿記を試験範囲としていて、商業簿記は、仕入先から商品を購入し、その商品をそのままの形で販売する業態の、いわゆる商品販売業をしている企業で用いられている簿記についての勉強をしてきました。

一方、工業簿記は何なのかというと、工業簿記では仕入れたものを材料として加工して、製品を作って売る製造業・メーカー・工企業の簿記だといえます。

商業・商企業の簿記が商業簿記で、製造業・工企業・メーカー、呼び方はなんでもいいのですが、その工業経営の簿記が工業簿記になります。

工業簿記は工業経営に用いられ製造活動について記録を行うことが特徴の、複式簿記になります。

商業簿記と工業簿記の違い

商業簿記と工業簿記はどう違うのかというと、前述のとおり製造活動をするかしないかという点が異なっているだけで、大きな違いはありません。

どちらも商品を仕入れる購買活動をしていますし、商品を売る販売活動もしています。製造業は商品を材料として購入し、材料を加工して製品の製造をする、製造活動を行っているのか、いないのかという違いだけです。

このことから、商業簿記と工業簿記の違いは、工業経営をしていて、加工にともなって発生した製造活動による費用をどのようにして分類していくか、またどのようにして計算・記録していくのかということが、工業簿記にはあって、商業簿記にはない違いになります。

また、工業簿記の対象の範囲としては、加工に関する費用、製造原価に関しての簿記になるので、商業簿記とくらべると、比較的狭い範囲が対象になっているということになります。

工業簿記の目的

工業簿記の目的は、商業簿記で学習したときと同じく、損益計算書や貸借対照表などの財務諸表を作成して、報告することです。

ですが作成して報告するという点について一つ問題があります。ここで説明をするために、工業経営または製造業がどういうものなのかについて簡単にイメージしてみましょう。

工場などで働いた経験がある方はイメージしやすいと思います。適切かどうかわかりませんが具体的な例を出すと、みかん販売している企業と、みかんジュースを作っている企業との違いを考えてみます。青果店ではみかんを仕入れてみかんを商品としてそのままの状態で売ります。商品をそのまま販売するのが商業経営です。対して、みかんジュースを販売している飲料メーカーはみかんを仕入れてもそのままでは売りませんね。みかんを加工してジュースという別の品物にして販売しています。

また、カレー専門店でもいいです、カレー屋さんでは、にんじんジャガイモ玉ねぎや、お肉やカレールーなどを買ってきて、洗って切って煮るという加工製造工程を経て完成したカレーを販売しています。にんじんジャガイモをまるごと売るカレー屋さんはありませんね、あったら面白いですが。工業経営のイメージはこんな感じです。

このように製造業では品物を商品ではなく材料として仕入れ、材料を加工し、製品を販売するという特徴があります。仕入と販売の間に、加工をする経済活動があるかないかの違いがあるということです。

商業経営と工業経営の特徴
  • 商業経営
  • 仕入
  • 販売(商品)
  • 工業経営
  • 仕入
  • 加工
  • 販売(製品)

そして問題というのは、この加工という経済活動があることが原因で、製品一つに対して、いったいいくらのお金がかかったのかがわからないという商品販売業では起きなかった問題が登場します。

商品販売業であれば仕入先から仕入れた商品は、そのまま仕入れた時の金額が売上原価になりました。簿記3級でしーくりくりしーとやったと思います。しかし製造業では、仕入れた材料を切ったり組み立てたり、そのための機械を購入したりと、加工を施しているわけですから、商品販売業の時とは違い、仕入れた材料がそのまま売上原価になることはできず、また、加工工程が増えれば増えるほど製品1つの原価がいくらかなのかが把握しづらくなってきますし、また、原価がわからなければ財務諸表を作成することはできません。

このため原価を管理する必要性が出てくるわけですが、原価管理をして報告するための記録として工業簿記が必要になります。これが工業簿記の目的です。

原価計算とは

工業経営での原価(コスト)は、経済的資源の貨幣による消費額で物やサービスを支出額で測ったものをいいます。

そして原価計算とは、製品の製造のために要した費用を集計し、製品1単位当たりの原価を算出する方法または手続きのことをいいます。

少し難しい言い方になってしまいましたが、ざっくり言うと、原価は「何かしらの活動でかかったお金」という意味合いで、原価計算は「何かしらの活動でかかったお金を計算する」んだ、ということです。

そして今は工業経営上での話ですから、原価計算は製品を製造する活動にかかったお金を計算する、といえます。

繰り返しになりますが、製造業では加工をする工程があることによって製品1つの原価が正確にはわからなくなっています。

原価がわからなければ売値を決めることができませんし、だからといって、勘だけで製品1つの値段を決めるわけにはいきません。

そこで製品を作るのにかかった費用を集計して計算する必要があり、この作業のことを原価計算といいます。原価を計算するという文字そのままですね。

工業簿記では製品1つあたりの原価を知るために、原価計算をする必要があり、どのような種類の原価があるのか、どうやって原価計算していくのかをこのあと沢山学習することになります。

原価計算の目的

原価計算は製品1単位当たりの原価を算出することはお話しした通りですが、その情報を得て何をするかということです。★1

①財務諸表作成目的
②原価管理目的
製品単位あたりの原価に利益を上乗せして販売価格を決めたいというときがあります。また期末に売れ残ってしまった製品の原価を知らなければならない時があります。このように製品の価格決定や財務諸表作成を目的として行われる原価管理目的の原価計算があり、これを製品原価計算といいます。
③利益計画目的

簿記2級の試験には出題されないので説明は省略しますが、3つの目的があるんだ程度は参考として知っておいてもいいかもしれません。

工業簿記と原価計算の関係

工業簿記では原価計算によって製品の原価が計算され、その計算結果は工業簿記によって帳簿に記録されるようになっているため、工業簿記と原価計算は密接な関係になっており、また原価計算を行う工業簿記のことを完全工業簿記といいます。

反対に原価計算を行わない工業簿記は不完全工業簿記とか商的工業簿記といいます。この用語は覚えなくていいです、ここは参考まで。

工業簿記と原価計算の関係
取引
(外部から)
材料
記録データ
原価の計算データ
損益計算書
貸借対照表

工業簿記

原価計算

工業簿記

難しい話ではありませんね、工業簿記は記録部分、原価計算は計算部分を対象にしているので、原価計算だけでは工業簿記に必要な情報は得られず、工業簿記だけでは正確な金額を知ることはできず、両方なければ役立たず、ということになります。

そして原価計算によって計算された工業簿記も商業簿記と同じく財務諸表という形で報告されることになります。

というわけで、工業簿記の試験勉強では工業簿記だけ、とか原価計算だけ、というふうに個別に学習することはなく、両方を同時に学習していくことになります。

原価計算期間

商業簿記の時と同じく、工業簿記も会計期間は期首から決算日までの1年ですが、工業簿記では会計期間とはまた別に、原価計算期間というのを設けて計算を行っています。

原価計算期間は通常毎月月初1日から月末までが基本です。なぜそんなことをするのかという理由ですが、計算期間を短くさせることによって決算を待たずに製品の原価の情報を得て、早めに改善させるため1ヵ月区切りになっています。

もし原価計算期間が1年毎だとすると、製品1つあたりの原価が判明するのは最低でも1年後ということになってしまい、そんなノロノロ経営をしていたら手遅れになってしまいます、ですので早く改善することができるように、原価計算期間は1ヵ月ごとに行われるということになります。

原価計算期間
会計期間
1
原価計算期間
1ヵ月1ヵ月1ヵ月1ヵ月1ヵ月1ヵ月1ヵ月1ヵ月1ヵ月1ヵ月1ヵ月1ヵ月
4/1
4/31
5/31
2/31
3/31

原価計算期間は月単位と覚えておいてください。